初期化ルーチン ― tInitializeRoutine

初期化ルーチンは、カーネルが実行を制御する処理単位で、カーネルの動作開始の直前に、カーネル非動作状態で実行される [NGKI1791]。

使用方法

初期化ルーチンの生成

アプリケーション開発者は tInitializeRoutine セルタイプのセルを生成することにより、初期化ルーチンを生成することができます。次の例では MyInitializeRoutine という名前の初期化ルーチンセルを生成し、 MyCelleTaskBody をメインルーチンとして結合しています。

app.cdl
celltype tMyCellType {
  call sInitializeRoutineBody cInitializeRoutine;
};

cell tMyCellType MyCell {
  cInitializeRoutine = MyInitializeRoutine.eInitializeRoutine;
};

cell tInitializeRoutine MyInitializeRoutine {
  attribute = C_EXP("TA_NULL");
};
tMyCellType.c
void eTaskBody_main(CELLIDX idx)
{
    CELLCB  *p_cellcb = GET_CELLCB(idx);
    // ...
}

初期化ルーチンの制御

tInitializeRoutine が提供する eInitializeRoutine という名前の受け口を利用することにより、初期化ルーチンの制御及び状態の取得を行うことができます。

app.cdl
cell tInitializeRoutine MyInitializeRoutine {};

celltype tMyAnotherCellType {
    call sInitializeRoutineBody cInitializeRoutine;
};

cell tMyAnotherCellType MyAnotherCell {
    cInitializeRoutine = MyInitializeRoutine.eInitializeRoutine;
};
tMyAnotherCellType.c
// 初期化ルーチン本体
cInitializeRoutine_main();

なお、非タスクコンテキスト内では、eInitializeRoutine の代わりに eiInitializeRoutine を使用する必要があります。

リファレンス

セルタイプ

celltype tInitializeRoutine

初期化ルーチンの生成、制御及び状態の取得を行うコンポーネントです。

本コンポーネントは CRE_PDQ 静的API [NGKI1800] により初期化ルーチンの生成を行います。静的APIの引数の値には、一部を除き属性値が用いられます。

attr ID id = C_EXP("PDQID_$id$");

初期化ルーチンのID番号の識別子 (詳しくは カーネルオブジェクトのID番号 を参照) を C_EXP で囲んで指定します (省略可能)。

attr ATR attribute

初期化ルーチン属性 [NGKI1795] を C_EXP で囲んで指定します (省略可能)。

TA_NULL

デフォルト値(FIFO待ち)。

TA_TPRI

送信待ち行列をタスクの優先度順にする。

attr uint32_t count = 1;

初期化ルーチンの容量。

attr PRI maxDataPriority

初期化ルーチンに送信できるデータ優先度の最大値。

attr void * pdqmb = C_EXP("NULL");

初期化ルーチン管理領域の先頭番地。

entry sInitializeRoutineBody  eInitializeRoutine

初期化ルーチンの制御及び状態の取得を行うための受け口です。

entry siInitializeRoutine  eiInitializeRoutine

初期化ルーチンの制御を行うための受け口です (非タスクコンテキスト用)。

シグニチャ

signature sInitializeRoutineBody

初期化ルーチンの制御、及び状態の取得を行うためのシグニチャです。

ER send([in]intptr_t data, [in]PRI dataPriority)

対象初期化ルーチンに、dataで指定したデータを、dataPriorityで指定した優先度で送信します。対象初期化ルーチンの受信待ち行列にタスクが存在する場合には、受信待ち行列の先頭のタスクが、dataで指定したデータを受信し、待ち解除されます。待ち解除されたタスクに待ち状態となったサービスコールからE_OKが返ります。

この関数は snd_pdq サービスコール [NGKI1855] のラッパーです。

Param data

送信データ。

Param dataPriority

送信データの優先度。

Return

正常終了 (E_OK) またはエラーコード。

ER sendPolling([in]intptr_t data, [in]PRI dataPriority)

対象初期化ルーチンに、dataで指定したデータを、dataPriorityで指定した優先度で送信します(ポーリング)。対象初期化ルーチンの受信待ち行列にタスクが存在する場合には、受信待ち行列の先頭のタスクが、dataで指定したデータを受信し、待ち解除されます。待ち解除されたタスクに待ち状態となったサービスコールからE_OKが返ります。

この関数は psnd_pdq サービスコール [NGKI3537] のラッパーです。

Param data

送信データ。

Param dataPriority

送信データの優先度。

Return

正常終了 (E_OK) またはエラーコード。

ER sendTimeout([in]intptr_t data, [in]PRI dataPriority, [in]TMO timeout)

対象初期化ルーチンに、dataで指定したデータを、dataPriorityで指定した優先度で送信します(タイムアウト付き)。対象初期化ルーチンの受信待ち行列にタスクが存在する場合には、受信待ち行列の先頭のタスクが、dataで指定したデータを受信し、待ち解除されます。待ち解除されたタスクに待ち状態となったサービスコールからE_OKが返ります。

この関数は tsnd_pdq サービスコール [NGKI1858] のラッパーです。

Param data

送信データ。

Param dataPriority

送信データの優先度。

Param timeout

タイムアウト時間。

Return

正常終了 (E_OK) またはエラーコード。

ER receive([out]intptr_t * p_data, [in]PRI * p_dataPriority)

対象初期化ルーチンからデータを受信します。データの受信に成功した場合、受信したデータはp_dataが指すメモリ領域に、その優先度はp_dataPriorityが指すメモリ領域に返されます。

この関数は rcv_pdq サービスコール [NGKI1877] のラッパーです。

Param p_data

受信データを入れるメモリ領域へのポインタ。

Param p_dataPriority

受信データの優先度を入れるメモリ領域へのポインタ。

Return

正常終了 (E_OK) またはエラーコード。

ER receivePolling([out]intptr_t * p_data, [in]PRI * p_dataPriority)

対象初期化ルーチンからデータを受信します(ポーリング)。データの受信に成功した場合、受信したデータはp_dataが指すメモリ領域に、その優先度はp_dataPriorityが指すメモリ領域に返されます。

この関数は prcv_pdq サービスコール [NGKI1878] のラッパーです。

Param p_data

受信データを入れるメモリ領域へのポインタ。

Param p_dataPriority

受信データの優先度を入れるメモリ領域へのポインタ。

Return

正常終了 (E_OK) またはエラーコード。

ER receiveTimeout([out]intptr_t * p_data, [in]PRI * p_dataPriority, [in]TMO timeout)

対象初期化ルーチンからデータを受信します(タイムアウト付き)。データの受信に成功した場合、受信したデータはp_dataが指すメモリ領域に、その優先度はp_dataPriorityが指すメモリ領域に返されます。

この関数は trcv_pdq サービスコール [NGKI1879] のラッパーです。

Param p_data

受信データを入れるメモリ領域へのポインタ。

Param p_dataPriority

受信データの優先度を入れるメモリ領域へのポインタ。

Param timeout

タイムアウト時間。

Return

正常終了 (E_OK) またはエラーコード。

ER initialize(void);

対象初期化ルーチンを再初期化します。対象初期化ルーチンの初期化ルーチン管理領域は、格納されているデータがない状態に初期化されます。

この関数は ini_pdq サービスコール [NGKI1902] のラッパーです。

Return

正常終了 (E_OK) またはエラーコード。

ER refer([out] T_RSEM *pk_initializeRoutineStatus);

初期化ルーチンの現在状態を参照します。

この関数は ref_pdq サービスコール [NGKI1911] のラッパーです。

Param pk_initializeRoutineStatus

初期化ルーチンの現在状態を入れるメモリ領域へのポインタ。

Return

正常終了 (E_OK) またはエラーコード。

signature siInitializeRoutine

初期化ルーチンの制御を行うためのシグニチャです (非タスクコンテキスト用)。

ER sendPolling([in]intptr_t data, [in] PRI dataPriority);

この関数は snd_pdq サービスコール [NGKI1855] のラッパーです。

Return

正常終了 (E_OK) またはエラーコード。

実装の詳細

初期化ルーチンの生成

tInitializeRoutine による初期化ルーチンの生成は、以下に示しているようなファクトリ記述により静的 API 記述を生成することで実現されています。

kernel.cdl (抜粋)
factory {
    write( "tecsgen.cfg", "CRE_PDQ( %s, { %s, %s, %s, %s} );",
         id, attribute, count, maxDataPriority, pdqmb);
};

最初の MyInitializeRoutine を用いた例の場合、以下のような静的API記述が生成されます。

tecsgen.cfg
CRE_PDQ( PDQID_tInitializeRoutine_MyInitializeRoutine, { TA_NULL, 1, TMAX_DPRI, NULL });

tInitializeRoutine が持つ属性は、 id を除き実行時にはすべて未使用である為、[omit] 指定を行うことでこれらの属性値へのメモリ割り当てが行われないようにしています。

サービスコール

eInitializeRoutine 及び eiInitializeRoutine に対する呼出しは、以下に示すような受け口関数により TOPPERS/ASP3 カーネルのサービスコールへの呼出しに変換されます。

tInitializeRoutine_inline.h
Inline ER
eInitializeRoutine_send(CELLIDX idx)
{
    CELLCB  *p_cellcb = GET_CELLCB(idx);
    return(snd_pdq(ATTR_id));
}